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発行:2015/7/27 |
安立電気製VHF信号発生器(M342-A) |
温故知新(50年前のアナログ最新技術を知る)
序論
扇形ダイアルの付いた昔の測定器は、ローテクなアマハム無線機の製作には格好のアイテムである。
時代を感じさせるレトロなダイアル、ケース、ツマミ、メータ等、活用できる部品が目白押しで、個々に揃えるよりも断然安価である。
10年ほど前であればヤフオクでもあまり人気が無く、タダ同然で入手できたアイテムであったのに、最近は同様に考える自作者が増えた為か
結構高額で取引されており、手が出せなくなった。
そんな折、扇形は諦め、ケースだけを使う目的で50年程前のアナログSGを手に入れた。
特徴的なVFOのバーニアダイアルと箱を使って何か作ろうと思った訳である。
入手してすぐにバラス前に、当時の技術者が苦労されたであろう構造やアイデアを少し探らせて貰った。
回路図も無く、到着してサット見ただけなので、以下の説明に誤りがあるかもしれない。
【外観】
フロントパネル
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左上:メインダイアル
A:55〜70MHz
B:146〜178MHz
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左下:PowerON−CW−FM変調切り替え
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その右INCREMENTAL(良く判らないが、発振出力の最良ポイントに合わせるようである。
※ツマミの位置によっては発振しない
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チャンネル切替:A/B2チャンネル切替SW
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メータ下:アッテネータ(出力調整)
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その下:AF_OUT 、LFO発振出力(40Ω/600Ω)端子
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最右列上:IF信号出力OFF-455KHz-10.7MHz-Op1-Op2切替SWと、出力レベル調整
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最右列中央:Carria(キャリア出力とあるが周波数微調整ツマミ)
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DEVIATION(周波数偏差)
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IF_OUT ・ RF_OUT
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外観は、年代の割には比較的綺麗である
唯一の破損箇所はメータのガラスが外れてしまっているところだけだった。
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いきなり100Vは危険なのでスライダックスで少しずつ電圧を加えた。
特に、何の問題も無く、正常に機能した。
ダイアル目盛は55MHz〜70MHzとなっているが、ダイアル下まで下げると48MHz付近から発振する。
50.2MHzを発振させ、スペアナと自作PLL_TRXで信号をモニタリングしてみた。
真空管VFOで逓倍せずダイレクトに発振させており、スプリアスは皆無であった。
しかし、相当なランニングタイムを置かないと、温度上昇に伴う周波数変動は相当でかい。
温度上昇と共に周波数は下がる方向へと変動するようである。
10分ほど経過した後に50.2MHzに合わせる |
5分経過 |
FM変調モード時 |
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A/Bバンド共に直接発振の為、スプリアスは確認出来ない。
このVFOのAバンドで6mトランシーバへの流用を考えた。
相当に電源を入れて放置しておいたとしてもSSBでは一寸苦しい。
AMであれば送信キャリア発振としての使用であれば、何とかなりそうである。
いずれにしても、このままでは発振範囲が広すぎてチューニングがクリチカルになってしまう。
構造はしっかりしているのでバリコンの容量をもっと減らしてやれば可変範囲が狭まり使えそうである。
【フロントケースを外した状態】
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ケース一番奥の電源ユニットとフロント側とはケーブルで直接繋がっており、コネクターは無い。
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フロント側(メッシュ構造の2重ケース内がVFOユニットと右奥に6AU6(5局管)
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12AT7(3極複合管で発信+バッファAMP)右のケースはIF用水晶発振器。
このユニットはこのまま受信機のIF又は送信キャリア発生器として使えそうである。
【IF信号発信器ケース内部】
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オプション455KHz、10.7MHzの他にオプションで2ケの水晶が入る。
ロータリSWと可変抵抗器が2連になった特殊部品を使用している。
奥側のSWでバンド切り替えと、手前VRで出力ゲインの調整が出来る。
【電源ユニット】
1.
左が電源トランス(鉄板でシールドされている)
2.
ケミコンは当時としては大容量の150uFが付いている。
3.
手前のトランスはLFO変調信号出力用(40Ω/600Ω)インピーダンス変換用と思われる。
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電源部の真空管は
右上:6AU8(3極+5極複合管) 右上:6RA2(4極3結電圧増幅管)
VFO用の1本の球の発振を出来るだけ安定化させる為に、電源電圧の変動を最小限に抑えるよう工夫されている。
【電源ユニット裏側】
【電源トランス(250V/65mA)−(12V/0.55A)−6.3V/2.6A)】
4.
青色のセレンはヒータの直流点火用か、又は下記トランジスタ電源用と思われるが未確認である。
電源トランスの入出力線は全てシールド線が使用されており、ノイズ軽減をはかったものと思われる。
また、使用されている半田も銀の含有率が高い物を使用しているようで、50年経過した現在でも
版場部分の配線はしっかりしており、全く問題ない。
先日、同時代に作られたアマハムの自作機器の配線を除いて見てみたところ、
配線の半田が脆くなって一寸配線を引っ張ると半田がポロッと外れて配線が抜けてしまう。
恐らくこの差は、使用している半田の質の違いであろう。
5.
足の付いた黒い円筒形の2つの部品はトランジスタ
回路は追っていないが、恐らく低周波発信回路と思われる。
【電源トランスのシールド内部】
内部にクッション材?でビッシリ納まっており、取ろうとするとボロボロになりそうなので、やめておく・
発熱耐久材が使われているのであろう。
【VFOユニット】
6.
本体側メインバーニャーダイアルに付いているVFO
二重蓋は2本のバネフックで止めてあるだけ。
内部は2連のタイトバリコンとコイル、発振用真空管1ケだけのシンプルな構造。
発振用の球は東芝製6ML4(UHFまで発信する日本独自の3極管)
バンド切り替えSWを切り替えると、ここに直結されたコイルが回転し発振周波数が切り替わる。
右上の円筒形の筒に、このLとM結合された出力コイルが入っている。
アッテネータツマミを廻すとこの筒の中央付近の四角いところで内部のパイプがスライズして、L結合距離で発振出力レベルが調節されると云う非常に凝った作りである。
しかしバッファアンプが無い為、L結合度が変化すると、寄生容量変化によって発振周波数も若干ズレが生じてしまう。
白いスパイラルで包まれたシールド線はこの先RF_OUTのNコネに直結している。
【総括】
昭和40年、当時のVHF受信機や無線機器はまだ帯域幅は広く使用されていたので、本機のようなSGでも十分実用的であったのであろう。
PLLやDDS等、高周波で高安定な発振器が安価に入手できる今の時代と比べ、
当時、真空管でVHF帯の安定した発振をさせる為に、電源回路を安定化させたり、メカ構造に工夫を凝らしたりと、多くの苦労が伺える。
日本の物造り、ここにありと言った感である。